『暮しの手帖』第2世紀26号
こんなに夢中になって雑誌を読んだのは初めてだった。
昭和48年10月1日発行 『暮しの手帖』第2世紀26号。
連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で話題となっているが、テレビを観る習慣がごっそりなくなっている私は、一回も観ていない・・・。
最近見た本屋さんに並んでいる『暮しの手帖』の表紙には、
・瀬尾さんの野菜術
・ステーキの焼き方
・三世代で着る自由な服
・すっぱいはおいしい
・まつりを見に行く
というタイトルが並んでいた。
料理もしない、裁縫もしない、掃除もしない、女子力ゼロの私にとっては、ずっと縁のない雑誌だと思っていたので、手に取ることもなかった。
そんな私に興味を持つきっかけを与えてくれたのは、『とと姉ちゃん』ではなく、TBSラジオ『JUNK伊集院光深夜の馬鹿力』だった。
2015年5月から「暮らしの裏ヒント手帖」というコーナーが始まり、『暮しの手帖』の中の「暮らしのヒント集」をモチーフにしたものだった。そのコーナーを聞いているうちに本家のものを読みたくなり、今までスルーし続けてきた『暮しの手帖』を初めて手に取ったのだ。
といっても、ラジオをさらに楽しむためのツールとして「暮らしのヒント集」のページを立ち読みする程度で、特に暮らしのヒントを実行するわけでもなく、他のページに目を通すこともなかった。
ある日、鳥取にあるsantana cotoyaさんに立ち寄った時に、古い『暮しの手帖』が数冊並べてあったので、昔から「暮らしのヒント集」あったのかなー、くらいの軽い気持ちで手に取りパラパラとめくろうとした。
しかし、全然パラパラいけない。巻頭から美しすぎてしびれてしまったので、「暮らしのヒント集」を読むのも忘れて、迷わずお持ち帰りした。
4Bの硬筆鉛筆で書かれたような手書きのタイトル。ほうき・哺乳瓶・フォーク・鍋を使ったキュートなグラフ。こんなの見たことない。
背景が漆黒という斬新なデザイン。たまらない。
右上の和風の「♀」と「♂」のデザインが妙な色気を感じさせる。
読み進めていくと、レベル高めのDIYページが現れたり、
ド迫力の火消し方法が載っていたり、(しかも青菜って・・・笑)
辛口すぎる玉子関連の道具の記事に少し心が痛くなったり、
もう夢中。
中でも、商品テストが衝撃的だった。
「オーブントースターをテストする」
このオーブン・トースターという名前は、なにができる道具なのか、はっきりしなくて、よくない。トースターとしては、すっかり開いてしまうから、オープン・トースターだとおもいこんでいる人さえあるくらいである。
と名前のディスりから始まり、全4メーカーの目盛りの表示・パンの焼け方・掃除のしやすさなどを暮しの手帖研究室で実際にテストを行い、記事にしている。パンの焼け方なんて、耐久性もテストするためだろう、各メーカーごとに1800枚目を焼いたら焼き目はどうなるかまで調査している。ということは、合計7200枚ものパンを焼いたことになる。
「※この後、スタッフが美味しくいただきました」的なコメントも見当たらないので行方が気になるところである。
もう一つ。
「Tシャツを80日着てみたらなにが起こったか」
(中略)
シャツのテストいうと、キミはひょっとして、さまざまなキカイや薬品を使った、実験室のようなものを思い浮かべるかもしれない。
なるほど、そういう方法でも優劣は出るだろうが、毎日着て、毎日脱いで、毎日洗うという、馬鹿正直なやり方にはかなわないのである。私たちが、今回テストしたのも、まったくこのやり方だ。
これは、読まずにはいられない。
暮しの手帖編集部の13人の男性が、月曜日はグンゼ、火曜日はBVD、水曜日はレナウンというように順々と着まわし、各メーカー80回、実日数にして240日のテストが行われたのだ。裾がほつれても、穴が開いても、記録しながら限界までシャツを着続ける。そのシャツたちが、いつ、どうして着られなくなったかを表でわかりやすくまとめ、結論付けている。
そして、結論から原因を探ってみたら、Tシャツを作る工程の都合で開けられた穴が大きく影響していたり、裁縫の仕方がメーカーによって全然違ったりだとかが見えてくるのもおもしろかった。
最後の方にもう一つ興味深いものがあった。
「私の読んだ本」というタイトルで、読者たちが実際に読んだ本の感想や意見を投稿するコーナーがあり、高校生から主婦や会社員の男女を問わず、結構な文字数(1800文字くらい)の投稿がされていた。募集の欄には以下のように書かれていた。しかも、稿料は一篇一万円。
世間に多く行われる批評や感想をなぞったようなものより、たとえ文章は拙くとも、あくまで、その人の暮しに深く関わったところから発せられる感想文を続々送って下さることを期待しております。
読者に対して本が与えた影響や、実際に購入したリアルな読者側からのするどい指摘もあったりして、おもしろかった。今で言えば、amazonのレビューみたいなものかもしれないけど、投稿者の名前もフルネームでがっつり載ってるし、1800文字もあるから読者の置かれている状況や性格なんかもなんとなく読み取れるし、文章に熱があって、それを読む熱も自然と上がった。
それに、一つのコーナーが読者からの投稿で成り立っているのも、ラジオ番組のコーナーみたいでちょっと楽しかった。ラジオにネタ投稿したら、気になってリアルタイムで聴いてしまうように、雑誌の場合でも採用されてるか気になって毎号買ってしまいそうだ。
最近の『暮しの手帖』も購入して読んでみたが、残念ながら商品テストのコーナーは今はもうないし、「私の読んだ本」もおそらく「本屋さんに出かけて編集部員が見つけた本」というコーナーに変わっていたし、文章全体もとてもやさしいものになっていた。まぁ、今の時代じゃ仕方ないのかもしれないけど。
しかし、現在も『暮しの手帖』には、外部からの広告は一切なかった。
「雑誌の全ての部分を自分たちの目の届く所に置いておきたい」という理念から、広告は外部からのものは一切受けず、自社書籍についてのみ扱う。(Wikipediaより)
だからこそ、読者が本当に求めている情報を、自分たちが発信したい情報を、何かに邪魔されることなく、公開することができていたのだ。
この事実を知るまで、子供の頃からずっと雑誌にはたくさんの広告があって当たり前だと思っていた。世間知らずの私は、そこに大人の事情がたくさん絡みついていたことにやっと気がついたのだ。
全体を通して読んでみると、昔の『暮しの手帖』には、主観で書かれた文章の魅力がたくさん詰まっている。テストなどをして得た事実はもちろんだが、文章の言葉遣いや言い回しなども独特で、原稿を書いている編集者の人柄や少し偏った考えが文章から多く伝わってくるので、なおさらおもしろい。
デザイン、写真、文章、全てにおいて、とても刺激的だった。
もう病みつき。2冊目に突入します。
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